2020/6/24

なんとなくでも、やりようはあるんだな

COVID-19、新型コロナ、呼び方は変わっても、実質は同じ。その影響でITのあり方も変わってきました。
ときどき「どう思います?」なんて訊かれます。
なので今回はちょっと真面目に、情報をデザインするという仕事をしてきた立場から、
この件について書いてみたいと思います。

テレワークと心の健康を守る工夫

皆さんからよく質問されるのは、いわゆるテレワークのことです。私たちは30年以上前から、会社としてテレワークに取り組んできました。今回もすぐに切り替えて、今は一人だけ出社して、残りは全員在宅です。ちなみにビデオ会議のメインツールは、マイクロソフトのTeamsです。
もともとフリーアドレスにするために、メインの作業環境はノートパソコンにしてありました。今はVPNを使って、自宅から社内ネットに接続できるようになっています。直近では電話環境を完全にデジタル化して、自宅にいても会社にかかってきた電話を確認できるようにしました。
特に重宝しているのは留守録機能です。留守電が入ると、相手の電話番号が記載されたメールが飛んできます。そこには留守録の音声ファイルも添付されています。後は内容を聞いてタイミングをみて電話をかけるだけ。この機能なら今の騒動が終わっても、便利に使い続けられます。
 

こうした取り組みで大切にしているのは、お互いの心の健康です。今回の件でいえば「体は自宅にいても、精神は会社にいるように感じられる」ことです。これを忘れて「自宅で自分のペースで」とやりはじめると、ミスをしたり鬱になったりします。
特に注意しているのは「よくわからないけど、これくらいはいいか」という、小さな疑問を確認しなくなることです。これを放置すると、小舟がさざ波にさらわれて、外海に連れて行かれるように、気がつかないうちに「何をどう聞けばいいかもわからない~」という状態に陥ります。
そして多くの場合、自己流で解決しようとして失敗します。これを繰り返すと鬱になっちゃうんです。これは痛い経験を重ねて知りました。だから意識せずとも、そういう感覚が持てるように、働き方のルールも決めて、電話などの日常的なツールを含めた環境整備をしているのです。

正しいことを優しく実現すること

オンラインでも毎日の朝礼や終礼は必ずやるし、週に一度は全員でビデオ会議をして、月に一度は顔を合わせます。顔合わせの日は、会議や研修がメインで実務はほとんどしません。しっかり距離を取ったうえで、できるだけおしゃべりによる交流をしています。
デザインやプログラムというと、マイペースな専門家集団というイメージが先行しがちです。でも専門性はこの世界で働く上での前提条件に過ぎません。その世界の中で成果を上げるためには、もう一工夫が必要です。そこで私たちが大切にしているのが、気軽に質問しあえる関係作りなのです。
これらはすべて、つながっています。一つひとつを細かく説明すると、とても紙面が足りないのでやめておきますが、よくデザインされたものが、多機能でありながら一体的に見えるのと同じように、内部的には連携しながら「健康に働ける状態」を実現しているのです。
 

一見、複雑なことのように思えるかもしれませんが、基本はシンプルです。それは人間らしさを大切にして、正しいことを優しく実現する工夫をすることです。正しいことをやれば結果はついてきます。でも強引にやるとひずみが生まれます。それではデザインとはいえません。
ほとんどの場合、正しいことと優しいことは反発します。そこで「どちらを採るのか」と考えていてはデザインはできません。両者のバランスを実現してこそのデザインです。こんなとき大事にしているのは「情報」という視点です。「情報」として捉えることで、すべてのものごとをフラットに扱うようにするのです。
人の気持ちも情報だし、受け答えをするときの言葉遣いや表情も情報です。会社のルールも情報だし、役に立つシステムも情報の塊です。これらの情報には、常になんらかの利害や都合が伴っています。でもそれを一度「単なる情報」として捉えることで、しがらみから自由にするのです。そうした上で、よりよい状態と結果につながるように、全体のバランスを意識しながら、丁寧に細部を組み立てていきます。

同じ視点で「人と会えない」という課題を捉えてみます。人と直接会う機会が減ると、売り上げが減ると捉えがちですが、本当にそうでしょうか。確かに「会うこと」は重要ですが、そこで仕事を成立させている要素は別にあると考えられます。
小規模事業所の強みは、経営者やベテラン社員などの経験豊かな人たちが、顧客の相談に親身になって対応するところにあります。今まではこれを「会う」ことでやっていましたが、実際のポイントは「経験豊富なプロと顧客が、お互いに敬意を持って相談すること」だと思うんです。
これが実現できるなら、オンラインになっても本質は失われません。むしろ逆手にとって、この基本のポイントを実現する機会を増やしたり、コミュニケーションの質を高めることだって可能です。ビデオチャットでグループ相談会などをするのが効果的でしょう。

バランスを取りながら日常をデザインする

大切なのは、表面的な世の中の動きに惑わされずに、本当に必要なことを(つまり正しいことを)優しく実現していくことだと思います。危険だからと神経質になりすぎても、緊急事態宣言が終わったらからと緩みすぎても、どちらにもリスクはあります。
以前より社会全体にルールができてきたし、薬はなくとも対処療法は積み上げられています。だからといって危険性がなくなるわけではありません。未だに治療薬はないし、ワクチンもありません。ウィルスと接触したら、感染する可能性は大いにあります。そして感染したら命がけです。
例えるなら、鞘のない状態で、切れ味抜群の抜き身の刀身だけが、ごろんとある感じ。うかつに触れば大怪我をします。でも扱いには慣れてきました。そういう意味では危険は減っています。でも根本的な恐ろしさは変わりません。
 

なんだか「不安」と「安心」の間を行ったり来たりしているような、ちょっとモヤモヤした感覚になるかもしれませんね。「どっちかにしてくれ!」みたいな。でもこれが現実です。そしてこういう板挟みは、デザインをやっていれば日常です。
だからこそ「二つのうちのどっちを選ぶか」ではなく、その間に「どうしたら正しいことを優しくできるのか?」という軸を置くのです。すると不思議なことに、ぶれない芯ができて、天秤ばかりのようにバランスをとることが可能になるのです。
もちろんうまくいかないこともあります。でも粘り強く真摯に取り組めば、それなりに成果は出るしなによりも経験は無駄にならないと思います。なんだか小難しい話になってしまったようにも思いますが、なんとなくでも「やりようはあるんだな」と思っていただければ幸いです。
 

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