2012/8/7

夏の日の思い出[vol.14]

こんにちは、e-ラボレターです。

東海地方もやっと梅雨明けをむかえました。
短い夏を満喫したいですね。
今回は、少し涼しくなるお話をひとつ。

夏の日の思い出

僕は時間もたつのを忘れて、アケビ採りに夢中になっていた。もう夕暮れを過ぎたころかな……そう思ったとき、急に天気が悪くなってきた。むこうの空から真っ黒な雲が覆いかぶさり、あっという間にあたりを暗くした。ザワザワという葉が擦れる音に、ポツポツという雨の音が加わった。僕はあわてて自転車の荷台へアケビをくくり付けた。

古くて重たい自転車は、足を動かすたびにギィギィと耳障りな音を立てる。生ぬるい風がゆらりと動いたかと思ったら、バケツをひっくり返したような雨が降ってきた。大粒の雨は容赦なく落ちてくる。道はでこぼこ。最悪だ。

それでも、山を抜けて川沿いの道を走っていると、すぅっと雨が上がっていった。この先の橋を渡れば、あとひとつ峠を越えるだけだ。少しほっとしたのもつかの間『暗闇の中で川に落ちたら大変だ』と気を引き締める。僕はまだ、死にたくない。

自転車は、相変わらずギィギィと耳障りな音を立てている。川の音を頼りに自転車をこいでいると、ふと何かの気配を感じた。それと同時に、ギィギィという音に混ざって、パタパタという音が聞こえた。足音だ。誰かがついてくる。ちょっと気味が悪いなと思って、自転車をこぐ足を速める。すると、パタパタパタッ! 心なしか足音も速まった。

ゾッとしてふり向きそうになる。でも「暗闇で後ろから足音が聞こえても、決してふり向いてはいけないよ」という母さんの話を思い出して、すんでのところでこらえた。そのとき、背中から首筋にかけて、走り抜けるような悪寒が襲ってきた。

必死で自転車をこいだ。足音はいっそう激しく追いかけてくる! 人数も増えている気がした。それでも僕はふり向けない。河童か? それとも川で亡くなった人なのか? どっちも嫌だ! とにかく家にたどり着かなければ。

峠の上り坂にさしかかった。あそこまで行けば、あとは峠を下るだけ。だけど……坂の上にはお墓が並んでる。ただでさえ怖い場所なのに、へたをしたら幽霊とお化けの挟み撃ちだ! 僕は破裂しそうな心臓をこらえて、峠を越えようとした。そのとき、大きな水たまりを踏んでしまった。

「!」自転車の前輪に青白い炎が灯った。鬼火だ!「うわぁぁぁぁぁぁぁ」叫び声を上げながら必死で自転車をこいだ。そんな僕をあざ笑うように、鬼火は車輪にあわせてクルクルと回っている。前は鬼火、後ろからは足音。絶体絶命だ。坂道を下りきって家の敷地に飛び込むと、自転車から飛び降りて家の中に駆け込んだ。

そこには、帰りが遅いとカンカンに腹を立てた母さんが待っていた。しっかりお灸を据えられた後、自転車を片付けに行くと、山ほどあったアケビはひとつもなくなっていた。そしてその夜、僕は熱を出した。

翌朝、縁側から呼びかけられる声で目を覚ました。そこには、畑仕事から帰ってきた父さんが立っていた。両手にはいっぱいのアケビ。その傍らには、僕の自転車がある。父さんが指さす先には、自転車の荷台から垂れ下がっているアケビのツタが……。
今にも吹き出しそうな顔の父さんが自転車をこぐと、車輪にツタがあたってパタパタパタッと音を立てた。 
( k&y&w. Special Thanks to H.)

大きく広がる想像力

From Staff >>>...ki3e

今回お届けしたのは、当社社長のお父様が子どものころ体験した話でした。
いかがですか? 少しは涼しくなりましたか? なんて(笑)。
昔の話なのに、今でも思い出せるのはとても衝撃的だったからでしょうね。

子どものころは、物音ひとつでも想像力が無限に膨らんで、いろんなものが見えていたような気がします。今では、あまり経験できないことですが、話を通すと、その感覚がよみがえってきますね。

今年の夏は、どのように過ごされますか?
ドキドキワクワクする夏休みをお過ごしください!

e-LabLetter 第14号 2009/08/07(Fri)発行

 
 

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